伊坂幸太郎 『陽気なギャングの日常と襲撃―長編サスペンス』

陽気なギャングの日常と襲撃―長編サスペンス
 映画化もされた前作『陽気なギャングが地球を回す』の続編と言うことで、あの四人の銀行強盗の「ギャング」の仕事ではないところに力点を置いたストーリー。それでいながら、全くの日常というわけではなく、まさに「日常と襲撃」というタイトルがピッタリな1冊でした。
 第一章では、四人のそれぞれの周囲の人間が巻き込まれた事件に関わるという、独立した短編として描きつつも、そこに折り込んだ伏線を二章以降のメインの長編に絡める上手さは文句なし。
 シリーズ物ならではの良さで、登場人物の個性を前作以上に際立たせる会話のテンポもあって、本当に一気に「読ませられてしまう」1冊でした。こうしたシリーズ物になると、キャラクターの個性にだけ頼ったものも見かけますが、本作に関しては1作目で確立した人物達をより一層活かしながらも、起伏に富んだストーリー、そして丁寧な伏線と、着実に1作目の時よりも力を付けた著者の上手さを見ることが出来ます。
 そして、力を付けたが故に生まれた余裕のような、コレまで以上の遊び心を感じさせる部分も楽しめました。

「田中に頼んでもいいんだが、田中の機嫌次第では時間がかかるかもしれない。それにいつも田中の情報や道具に頼っていると、またか、と思われるかもしれない」と成瀬が眉を上げる。
「誰に思われるんだ!」響野は思わず、声を高くしてしまう。
「俺たちの作戦は、全部田中任せで、田中がいれば何でも出来るんじゃないか、と見透かされるかもしれない」
「だから、誰にだ!」

 『陽気なギャングの日常と襲撃―長編サスペンス』p219

 その遊びは、こんな風に読者を巻き込んだある種メタ風味な掛け合いであったり、節ごとに挿入される、辞書の引用を一部改変したようなユーモアであったりと、非常に高いエンターテインメント性を見せ付けるものだと言えるでしょう。
 ラストの上手さという部分では、前作の方が、怒涛の伏線回収の末に効果的なシーンの演出がなされていたという見方も出来ますが、全編にわたる伏線の絡み合いで出来ている本作も、読者の期待以上のシリーズ続編に仕上がっています。