岡崎琢磨 『珈琲店タレーランの事件簿 3心を乱すブレンドは』

珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
 関西のバリスタナンバー1を決める大会に出場することになった美星さんですが、その大会は前回大会である事件が起こったことで、一度は開催が見送られるという経緯がありました。2年前の大会で起こった事件については関係者が揃って口を噤む中、出場者の一人のコーヒーに異物が混入されてしまいます。

 シリーズ3冊目にして初の長編。
 本作ではタレーランの店内から大会の会場へと舞台を変え、明らかに悪意を感じさせる異物混入が、関係者の内部犯行であることを匂わせ、序盤から不穏な空気を感じさせるものとなっています。
 さらには、誰も彼もが語りたがらない、その後の大会の開催にまで影響を及ぼすこととなった2年前に起こった事件と、それを機に表舞台から姿を消した天才バリスタの存在が実に意味ありげに仄めかされることとなります。
 犯人の意外性という意味では、ある程度限られた人間関係の中でのことなので、それほど大きなサプライズはないかもしれませんが、その真相に至るまでに張り巡らされた伏線は緻密であり、背景にあった動機の物語中でのリアリティも確保されていて、1作目から感じさせられていた著者の伏線の上手さは本作でも生きていると言えるでしょう。
 これまでの連作短編集形式にしろ、今回の長編にしろ、シリーズとしての安定性も出てきて、次回作も楽しみに待ちたいと思います。