伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』

フィッシュストーリー
 伊坂作品の名脇役が登場する4編の短編集。

■「動物園のエンジン」
かつて動物園で飼育していた2頭のシンリンオオカミが逃げ出し、1頭だけが戻ってきたもののもう1頭は戻ってこないままとなり、飼育係の永沢は職を辞します。ですが夜の動物園のシンリンオオカミの檻の前で毎晩横たわる永沢を見て、主人公は河原崎や恩田とともに永沢の行動の真意を推理します。
■『サクリファイス
山田という男を探すために木暮村を訪れた、本業空き巣、副業探偵の黒澤は、その村に伝わる「こもり様」という奇妙な風習を耳にします。そして洞窟にこもる「生贄」役には、何故か高確率で周造という大工の男が当たることを聞かされ・・・。
■『フィッシュストーリー』
20年前、男は車でたまたま通りかかった所で、襲われている女性を助けます。そして現在、父親の教えで「正義の味方」になれと言われた数学教師はハイジャックされた飛行機に乗り合わせます。その10年後にはある女性が世界規模でのネットワーク・トラブルを防ぎます。
これらを繋ぐのは、30年前に、売れないロックバンドがレコード会社との最後の契約のレコーディングに臨んで、ある本の一節を歌った歌が収録された1枚のレコードでした。
■『ポテチ』
人の良い泥棒の今村は、たまたま泥棒に入った先で聞いた留守録を聞いたことで、大西と同棲を始めることになります。そして野球選手の尾崎家に忍び込んだ今村と大西は、尾崎の電話に助けを求めるメッセージを聞くことになります。そして何故か今村が過剰に尾崎に肩入れをすることに、大西は気が付きますが。


 改めてこれまでの伊坂作品を読み返してみないと、覚えていない登場人物もいるのですが、人物の書き方の上手さ以上に、話の作り方の上手さが見えることにこそ評価をすべき1冊では無いでしょうか。
 特に表題作になっている『フィッシュストーリー』では、それぞれ個別の時間軸の中で展開する物語が1枚のレコードで繋がり、さらには「お礼はその人のお父さんに」という台詞で綺麗に輪を閉じる手腕は鮮やかの一言。
 最終的には馬鹿みたいに善意に満ちた物語でありながら、作り物ならではの小気味良さを最大限に見せ付ける、伊坂幸太郎らしい作品集でした。