佐々木丸美 『夢館』

夢館
 生まれる前から魂に刻み付けられた、崖に聳え立つガラスの館に帰るために歩き続け、輪廻転生の果てに再び吹原と巡り合った千波。迷い子として吹原に引き取られた千波は、一心に当主の吹原を慕う屋敷の住人たちの中で育ちます。ですが、一線を越えて吹原に恋情を抱いた女は、何故か精神の均衡を崩して死んでいくことになります。結ばれることの無かった二度の生の果てに巡り合った、吹原と千波の輪廻転生の縁の結末を描く、「館三部作」の完結編。

 本書は『崖の館』三部作の完結編であると同時に、著者の『雪の断章』にはじまる「孤児シリーズ」へもリンクしている作品。ミステリ色はほとんどなく、千波という少女の恋と輪廻転生を幻想的に描いた異色作。
 その意味では前2作を読んでそのまま本書を手に取った読者は、既に故人であったはずの千波が全く年齢も環境も違う中での人生を送っていることに、少なからず戸惑いを抱くことになるかもしれません。
 それまでは、年少の従姉妹である涼子の目を通して、最初から完成されたカリスマであった千波が、本作で初めて、恋心とともに育つごく普通の少女として、実態を持って現れることになります。
 そして本書に辿り着くことで、読者はこのシリーズが千波という少女の魂の遍歴を、彼女が羽を休めた「崖の館」に見い出すことになるのでしょう。
 単行本未収録の短編『肖像』も、そうした佐々木丸美の作品世界の特徴を色濃くもった作品。
 また、巻末の千街昌之氏による解説も秀逸。