霧舎巧 『霧舎巧 傑作短編集』

霧舎巧傑作短編集
 電車の中で自らは死人であり、かつて自分を裏切った男を殺すのだという、切断された手首を新聞紙に包んだ男が起こした殺人のアリバイトリック、「手首を持ち歩く男」。アジサイ屋敷と呼ばれていた屋敷が会った頃の母による子殺し、紫陽花団地となってからの、子供の行方不明事件の多発の真相を紐解いた「紫陽花物語」。御手洗が石岡とともに訪れた動物園で、ワラビーと共に男が密室で殺された事件、島田荘司御手洗潔もののパスティーシュ「動物園の密室」。女子学生会館の一室で起こった殺人事件の、毒蛇に噛まれた死体と手首から先を切り取られた死体の真相「まだらの紐、再び」。満月の夜に出会った不思議な少女と、冴えない大学生のジョーとの儚い恋物語「月の光の輝く夜に」。そしてこれらの短編を「《あかずの扉》研究会」のシリーズと繋ぐ「クリスマスの約束

 一編一編の本格としての精度も高く、奇想に満ちた短編集。難を言えばそれぞれのトリックを用いる必然性等の面で、本格ミステリが抱えるリアリティの面での弱さがないわけではないものの、短編という枠組みの中で魅力的な謎の提示と、その論理的な解決をキッチリ示した点は評価に値するものでしょう。
 著者の作品は長編ではキャラクター小説的な要素が強いのですが、短編になるとその辺りも丁度良く薄まって、ごくごくオーソドックスな本格ミステリの色彩が前面に出ている印象があります。
 そして、一見「《あかずの扉》研究会」とは無関係な御手洗潔もののパスティーシュや、幻想的な恋愛小説までもが最後の一編によって綺麗に結び付けられることで、1冊の短編集としての纏まりも非常に良くなっています。特に、御手洗潔と《あかずの扉》研究会の登場人物との運命的ともいえるリンクは見事。