知念実希人 『天久鷹央の推理カルテIII 密室のパラノイア』

天久鷹央の推理カルテIII: 密室のパラノイア (新潮文庫nex)

 双子の姉に半ば無理矢理見せられた「呪いの動画」を視聴していたところ、駅のホームから転落した女子高生。彼女はストレスによる自殺を図ったものとして、精神科へと入院させられますが、病院の統括診療部の天久鷹央は、その診断に疑いを持ちます(『閃光の中へ』)。
 男性に触れられると激しいアレルギー症状を引き起こす女性患者。ですが、必ずしも全ての男性に反応するわけではないらしく・・・?(『拒絶する肌』)。
 統括診断部で鷹央の下で働いていた小鳥遊が、急遽大学病院へと呼び戻されることになってしまいます。そのことに納得のいかない鷹央は、大学病院の小鳥遊の先輩医師が殺人の容疑が掛けられたがために小鳥遊が呼び戻されることになったことを知るや否や、事件の真相究明に乗り出します。密室としか言いようのない犯行現場で一体何が起こっていたのか(『密室で溺れる男』)。

 シリーズ3作目は、短編2本と中編1本が収録されたもの。前2作を踏襲し、連作短編集の形式で、最終話へと各編を繋ぐ場面が挿入されており、今作では小鳥遊と鷹央が共に統括診断部での仕事を続けることが出来なくなるのか――ひいては、対人関係において大きな問題を抱える鷹央が取り残されてしまうのか、という、シリーズにおけるある種の山場を迎えることとなります。
 勿論、各話の中での謎解きはきっちりと行なわれており、それぞれを独立した短編として読んでも十二分に読み応えのあるミステリとして仕上げられています。個別の謎について言及すれば、それぞれのタイトルがヒントを表している部分はありますが、医学知識を要する謎の形成と解明ではあるものの、作品のリーダビリティの高さもあって各編ともミステリとして幅広い読者に親しまれるものに仕上がっていると言えるでしょう。
 そして、中編の『密室で溺れる男』は、シリーズ中これまでで一番「ミステリ」という形式にこだわったものになっていると言えるかもしれません。
 ただ、比較的冒頭から最終話で起こる、主人公二人にとって不穏な流れを彷彿とさせる下りが挿入され・・・という全体の形式に関しては、そろそろ読者も慣れて来てしまって、物語を楽しむ上でのドキドキ感というのは、だんだん薄れて行ってしまうのも致し方ないような印象もそろそろしてきたような・・・。