知念実希人 『天久鷹央の推理カルテ』 

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫)
 天医会総合病院に設立された「統括診断部」に勤める医師の小鳥遊は、彼の上司であり不可解な病状に天才的な診断を下す天久鷹央に振り回される毎日を送ります。鷹央が興味を示すのは、河童を見たという少年の訴えであったり、病院で夜勤をする看護師が見た人魂であったり、あるいは中絶手術をしたのに腹に「赤ちゃんが戻ってきた」と訴える患者など、時として病院とは全く関係のないものをも含め、多岐にわたります。
 探偵の「謎解き」と医者の「診断」とをオーバーラップさせ、ライトノベル的な分かり易いキャラクターを配置することで魅力的なエンターテインメント作品に仕上がったとも言える一作。起こった現象や事実の積み重ねと、科学的な検証の上に推測をするという過程において、この両者には確かに共通点があるのでしょう。
 著者が医師であるからこその謎とその解明は、専門知識があればこその成り立ちであるのは事実ですが、病気の解明と謎の解明を重ね合わせる各編の構造は非常に分かり易く、幅広い読者が楽しめるリーダビリティに富んだ作品であると言えるでしょう。
 続編もあり得そうなので、その辺りも非常に楽しみです。