コニス・リトル 『夜ふかし屋敷のしのび足』

夜ふかし屋敷のしのび足 (創元推理文庫 M リ 5-2)

 女友達のセルマに頼まれ、彼女の離婚調停中の夫の家にあるはずだという、セルマが別の男性に宛てたラブレターを盗み出すために、カリーは「エレン・マクタビシュ」という偽名を名乗り、メイドとして屋敷に乗り込みます。さっさと手紙を見つけて逃げ出そうと試みるカリーですが、セルマの夫であるアランにはあっさりと正体を見抜かれ、挙句の果てに屋敷で起こった殺人事件のこともあり、逃げ出すことも出来なくなってしまいます。

 前作『記憶をなくして汽車の旅』と同様に、本作における主人公のカリーは自分の身分を偽って見ず知らずの家族の中に紛れ込むという事態に放り込まれます。
 本作においても登場人物はそれぞれが何か思わせぶりな言動を取り、出てくる人物はことごとく癖のあるキャラクターとして描かれているのですが、翻訳の問題なのかそれとももともとの作品の持ち味なのか、今ひとつ人物の掘り下げがあっさりとしすぎているように感じられ、ただ漠然とページを読み進めて気が付いたら事件は解決していたという感じの1冊でした。
 ミステリとしても、カレンダーに付けられたしるしを見て卒倒する女性、動物など飼っていないはずなのに見かける動物の気配、死んだ女性に話しかける家人、動物の爪で傷をつけられたような聖書など、物語の進行と共に、こうした不自然な出来事が次々に主人公の前で起こります。そしてその結末は無難なところに落としてはいるものの、こうしたガジェットが用いられているにもかかわらず、推理要素は不思議なほどに薄味な作品に仕上がっている印象はあります。
 ですが、怖いもの知らずな主人公と他の人物とのコミカルな掛け合いは楽しめますし、テンポの良さや読みやすさもあるので、ライトタッチな海外ミステリとして気軽に手に取るには良い1冊かもしれません。