J・D・ロブ 『報いのときは、はかなく イヴ&ローク19』

報いのときは、はかなく イヴ&ローク19 (ヴィレッジブックス)

 ローク・インダストリーズで働く、かつてはシークレットサービスで大統領を警護したこともある女性が、夫と彼女の親友だった女性の浮気を知り、二人に鉄槌を下す為にその現場に武器を持って乗り込みます。ですが彼女が発見したのは、ベッドの中で血塗れになって死んでいた二人の姿でした。そしてその場に潜んでいた何者かによって昏倒させられた彼女には、殺人容疑がかけられます。ニューヨーク市警の警部補としてこの事件の指揮を取るイヴは、事件には裏があり、何者かの陰謀が働いていることを直感します。

 夫の浮気への復讐に燃える妻を陥れたのは何者か――当初の出発点が非常にプライベートであった事件が、捜査の進展と共に徐々に大掛かりな組織的背景を匂わせるものになる本作は、中盤まではひたすら風呂敷を広げ続けます。そして広げたその先に、これまでのシリーズ作品同様、イヴの少女時代のトラウマが絡んでいることは些かやり過ぎという気はしますが、それを夫のロークとの間の齟齬に繋げ、最終的には二人の絆へと落としたストーリーテリングはさすがといったところ。
 シリーズ19作目となる本作は、大きな組織が個人の運命を狂わせる犯罪へと物語の舵を切っていったことで、一人の警官としてのイヴが(反則技の集大成のような夫のロークという味方がいるとしても)強大な国家レベルの組織とのパワーゲームを強いられ、同時に警官としての彼女と法の正義を信じてはいない夫との間の対立を生み出すことで物語を盛り上げます。
 そして最終的にはその落としどころを、組織という姿の見えないものではなく、「犯罪者」個人へと定めたことにより、物語はきちんとした着地を見せています。犯人が行なった隠ぺい工作に関しては、さほど大きなサプライズはないものの、徐々に犯人の内面を暴き、その精神構造が浮き彫りにされていくさまにはそれなりの説得力があると言えるでしょう。
 シリーズも20冊近くなればバリエーションも出尽くして、目新しい展開もあまりないものの、リーダビリティの高さと、安定した質を保ち続けている良い意味でのパターン化やマンネリには、ある種の安心感もある気がします。