中野順一 『セカンド・サイト』

セカンド・サイト (文春文庫)
 キャバクラでボーイとして働くタクトは、店のナンバーワンキャバ嬢のエリカに、彼女の元客でストーカーとなってしまったという男を撃退して欲しいと頼まれます。元客だったストーカー男の大倉が務める会社が怪しげな会社であることは分かりますが、あくまでも大倉個人に対するだけならと、タクトはエリカを守ることにします。折りしもキャバ嬢を狙った通り魔事件が起こり、タクトの店の女の子も被害に遭いますが、その通り魔が狙っている被害者の特徴が、最近タクトが気になっている花梨にも当てはまることにタクトは気付きます。そして、まるで予言のようにふと漏らされる花梨の言葉を何度も聞き咎めたタクトは、彼女が特殊な能力を持っていることに気付きますが…。

 サントリーミステリー大賞を受賞した著者のデビュー作。
 ストーカーから始まった事件は、やがて殺人事件、そして大掛かりな組織犯罪にまで広がりを見せますが、それらをタクトの視点によって一連の繋がりをスムーズに描いている著者の力量は、非常に安定感のあるもの。
 また、風俗街を舞台にはしているものの、悪い意味でのアクの強さがないために、猥雑さを孕みながらもどこかスタイリッシュな読み味も、作品世界に入りやすいという意味では好感が持てます。
 ただ、主人公のタクトというキャラクターに関して言うならば、良くも悪くも癖のないキャラクターであり、強烈に不快感を感じさせられることはない反面、共感できる部分も少ないということは言えるかもしれません。花梨の能力に関しても、作中で特に破綻はないものの、本作単体で見るならば、必ずしも必要な設定だったかどうかは微妙な気もします。それは、花梨が本来キーパーソンであるべきキャラクターにもかかわらず、彼女自身が物語の中心に位置する割合が極端に低いというバランスの部分での弱さから受ける印象であるとも言えるでしょう。
 ですが、広げた風呂敷の破綻のなさ、分かりやすいし先を読みやすいという面はあるものの堅実に張られた伏線など、全体として破綻なくまとまった作品。