スティーグ・ラーソン 『ミレニアム2 火と戯れる女』

ミレニアム2 上 火と戯れる女ミレニアム2 下 火と戯れる女
 リスベット・サランデルの後見弁護士のビュルマンは、彼女に復讐するためにリスベットの過去を洗い直し、そこからある人物へと辿り着きます。一方、突然リスベットに連絡を断たれたミカエルは困惑しつつも、外国人少女の人身売買に関する原稿を持ち込んできたフリージャーナリストのダグと、そのパートナーのミアに好意を持ち、この件に関する特集を雑誌「ミレニアム」で組むことを決定します。ミカエルとの関係を絶って外国旅行を楽しんでいたリスベットは、帰国して新しい生活基盤を築き始めますが、ミカエルを通じてダグとミアが追っている人身売買組織に興味を抱くことになります。ですが、リスベットがダグとミアにコンタクトを取った後、彼女は思わぬ窮地に陥って孤立無援の戦いを強いられます。

 前作で仄めかされていたリスベットの過去の「最悪の出来事」は、本作の核をなしており、リスベットと「ザラ」と呼ばれる人物との間にある何かが「全て」の根幹であることが分かってきます。
 身勝手な私利私欲からリスベットを窮地に陥れようとする大勢に反し、一貫してリスベットを信じるミカエル、彼との間に距離を置こうとするリスベットの関係のもどかしさ、そして徐々に二人の物理的な距離が縮まって混迷しきった状況が明らかになり始めた後の展開の早さなど、作者による読み手を惹き込む演出の上手さは、この第二作においても一層冴え渡っています。
 コンピュータを介してのミカエルとリスベットのメッセージのやり取りの微妙な空気や、リスベット・サランデルというキャラクターを描く上での素地は、既に前作においてその伏線が綿密に用意されています。そして、リスベットというキャラクターを丁寧に作り込んだことで、本作における大掛かりであるがゆえに、一歩間違えれば陳腐で荒唐無稽になりかねない犯罪に説得力を持たせることが出来ていると言えるでしょう。
 警察、リスベット、ミカエル、リスベットの雇用主だったドラガン・アルマンスキーらが、それぞれの立場からそれぞれの手法で真相を追い、小さな点と点を繋ぎ線にしていくことで結末へと導かれる物語は、多くの問題を次作へと先送りしている部分はあります。ですがそのことは決してマイナスではなく、『ミレニアム』という三部作の物語の最終章への期待感を高めるものであって、この辺りのストーリーテリングの巧妙さも、エンターテインメント性の高さとして評価すべき点でしょう。