ローリー・アンドリューズ 『遺伝子捜査官アレックス 殺意の連鎖』

遺伝子捜査官アレックス/殺意の連鎖 (ハワカワ・ミステリ文庫)
 軍が運営する研究施設に2年間の契約で勤務する遺伝子学者のアレックス(アレクサンドラ)は、スペイン風邪のウィルスのゲノム解析が軌道に乗り始めます。ですが政治的な野心に溢れる新しい所長のワイアットの就任により、アレックスは軍の基地周辺で起こる連続殺人のチームに加わって遺伝子操作に携わることが決まってしまいます。セクハラ紛いの言葉を投げ付ける嫌味な同僚や、自らの政治的立場を事件によって優位にさせようとするだけの新しい所長に悩まされながらも、彼女は少しずつ事件にのめりこんで行きます。

 中盤までの展開はややもたついており、事件の捜査よりもハンサムな下院議員とのロマンスや、彼女の周囲での政治的な駆け引きに終始する印象。ですが、その課程で描かれるエピソードが後々の伏線となっている部分もあり、終盤になってようやく見えてくる物語の構造の緻密さを指摘することは出来るでしょう。
 ですが反面、そこに至るまでの展開には、リーダビリティは高いものの、ややテンポの悪さも感じられます。また、シリーズ名になっている(当然邦訳の際に冠されたものではあるのでしょうが)「遺伝子捜査官」という大仰な名前に反し、事件の解明にアレックスの専門性がさほどの寄与をしていないという部分は若干名前負けという印象を持たざるを得ません。
 また、終盤での二つの事件解明に繋がる伏線が含まれるとはいえ、それが読者に見えるまでの過程はやや散漫な印象も皆無ではありません。
 しかしながらシリーズの一作目としての、今後の物語に登場する個性的な人物や舞台となる場所を読者に認知させるという意味では、著者の手堅さとでも言えるものを見ることは出来るでしょう。