湊かなえ 『贖罪』

贖罪 (ミステリ・フロンティア)
 平和な田舎町で少女時代を過ごした、紗英、真紀、晶子、由香。彼女ら四人は、小学校の夏休みの時、都会から引っ越してきた少女エミリちゃんが目の前で男に連れ去られ、暴行の末に殺された死体を発見するという出来事を経験しています。大人になってもなお彼女らは、心の奥底にある事件の目撃者となってしまったことで生まれた傷を抱えつつ、エミリちゃんの母親に投げかけられた、「犯人を時効までに見つけるか、納得できるような償いをしろ」という言葉に縛られ続けます。

 本作は、事件の目撃者だった四人の少女と、事件の被害者となった少女の母親との間で交わされた遠い約束が、新たな悲劇を生む連作となっています。それと同時に、時間を経て改めて彼女ら自身の事件を通して語られる過去から浮かび上がる事件の真相が、思いも寄らなかった一つの絵となる長編作品でもあります。
 本作は章ごとに語り手を変え、それぞれ手紙やある人物に向けた一人称の語りで構成されます。物語は、起こるべくして起こったかつての少女たちが成人後に迎える事件と、その結末を必然とした彼女らのパーソナリティ形成の根幹にある過去が綴られます。そしてそれら全てが出揃った時に明かされるのは、過去の事件の真相以上に、「贖罪」が誰に対してのものであるのかということ、そして贖罪の意味そのものです。
 そうした観点からは、物語の核にあるものは紛れもなく彼女らが少女時代に体験した少女の殺害事件であるにも関わらず、犯人の論理が不在のまま物語が成立するに至ったのは、紛れもなく焦点を「贖罪」という言葉に絞った故であり、この点において作者の狙いは成功していると言えるでしょう。
 過去の犯罪における救いのなさに反し、結末部分において救いを示したことでの甘さは否定できませんが、リーダビリティの高さや作品全体の構成の良さは高く評価したいところ。