世界を救ってきた英雄ソリッド・スネークの体は、人為的に操作された遺伝子により急速な老化を見せ、その寿命が尽きようとしていました。そんな英雄の最後の戦いは、彼と同じ同じ「ビッグ・ボス」のクローンであるリキッド・スネークを暗殺することでした。
ゲームのノベライズ作品ですが、元ネタのゲームはやっていないので、作品の予備知識がない分、世界観に入り込むまではワンクッションあるのは事実。ですが、小説作品としてこれはこの1作で独立して読ませるだけの書き込みは十分になされており、重厚なSF・ハードボイルド作品として楽しめました。
そして本作は、ソリッド・スネークの相棒を務める技術者オタコンの視点を用いることで、最後の戦いに挑み、そして刻々と迫る死期を見据えたスネークの姿を、より一層存在感の強いものとして描くことに成功しているといえるでしょう。このオタコンが「きみ」に語りかけるという形式は、そのまま読者にダイレクトに響くと同時に、エピローグでちょっとした仕掛けが明らかにされる辺りも、実に良く出来た構成を見せていると言えます。
描かれる世界は、おそらくはゲーム「メタルギア・ソリッド」の世界を十二分に表現していると同時に、どこまでも「伊藤計劃らしい」雰囲気を持ったものとなっているように思います。
激しい戦いの場面にあってもどこか静謐さを感じさせ、そしてどこまでも静かなラストが印象的な一作。