麻耶雄嵩 『隻眼の少女』

隻眼の少女

 死に場所を求めて訪れた集落で、種田静馬は自らを探偵だという、御陵みかげと名乗る少女に出会います。自殺のタイミングを図っていた静馬ですが、その土地の有力者である琴折家の娘が首を切られて殺された事件に遭遇し、みかげの助手として少女とともに事件にあたることになります。ですが、彼らや警察を嘲笑うかのような犯行は続き、事件はさらに悲劇的な様相を呈してきます

 鄙びた寒村、奇妙な風習を持つ旧家、エキセントリックな探偵と、大枠ではかなりオーソドックスなコードに従っている部分の多い本作ですが、その実巧妙な変化球を隠し持っている、著者らしさも窺える一作。
 一見すれば実にスタンダードな設定を用いたと思われる本作ですが、代々受け継がれる「スガル様」という特殊なしきたりに縛られる旧家の論理を、やはり血筋で受け継がれる「探偵の業」に重ね合わせたことで、横溝的でオーソドックスな閉鎖社会における事件ものに終わらない作品に仕上げたと言えるでしょう。
 さらに、二転三転する事件と推理に翻弄された末の第一部の絶望的な終焉から、年月を経て新たな展開を迎える流れも秀逸。
 途中までは「麻耶雄嵩」という著者にしては薄味に思えても、その実何とも著者らしい重さを持った変化球が鮮やかな作品でした。