J・D・ロブ 『母になる冬の死 イヴ&ローク24』

母になる冬の死 イヴ&ローク24
 親友のメイヴィスが臨月を迎え、出産の立会いをと望まれて、夫婦揃って恐怖を抱きながらもイヴとロークは出産のコーチングにまで出席することになります。そうした中、イヴの本来の日常である殺人事件が起こります。被害者は有名な一流の会計事務所に勤める女性で、彼女の死後にもう一人が同一の犯人によって殺されていることが判明します。ですが、被害者の仕事関係を調べるイヴに対し、彼女が操作で知りえたデリケートな情報を夫のロークに漏らすのではないかという懸念を指摘され、イヴは激しい怒りを覚えます。さらに、メイヴィスの友人の妊婦が突然失踪し、彼女を捜して欲しいという思わぬ依頼もイヴはされてしまいますが…。

 ヒットメーカーによる人気シリーズだけあって、24冊という巻数を重ねながらも、その中で主人公のイヴとロークだけではなく、多くのレギュラー化した登場人物たちに物語内で経過する時間に伴う変化を与えることで、マンネリ化を回避し、さらには登場人物たちをより一層魅力的なものにすることに成功していると言えるでしょう。
 本作では、シリーズの最初の頃からイヴの個性的な友人として登場していたメイヴィスがいよいよ母親になるという、シリーズにとっても大きな変化が訪れます。そこで目の当たりにさせられるのは、幼い頃に親の愛情を受けることのなかったことで心に傷を負ったイヴとロークにとっては未知の世界であり、彼ら自身にも、否応もなくまたひとつ大きな変化を促すものとなります。
 その一方で、ここまでの長いシリーズを通してイヴの被害者たちに対する、そして卑劣な犯人に対する姿勢というのは終始一貫しており、前述のようなイヴの人間的な成長と同時に描かれる、警官としての彼女のブレのなさが、作品のひとつのアクセントとして利いているということも言えるかもしれません。
 本作では、会計事務所に勤める二人を殺した殺人事件に加え、妊婦の謎の失踪事件、そして親友の出産にまつわる騒ぎまでもが描かれ、一見すると盛りだくさん過ぎるようにも思えます。しかしながらそれらは決して散漫になることなく、計算されたプロットの元に配置されているために、非常におさまりの良い物語を作り上げていると言えるでしょう。