ジル・チャーチル 『眺めのいいヘマ』

眺めのいいヘマ (創元推理文庫)

 知り合いの女性の結婚式のプランニングを請け負うことになったジェーンは、主婦友達のシェリィとともに、式場となる新婦の一族の持ち物である、修道院を改装した田舎の狩猟屋敷へと向かいます。ですが、そこに住む無愛想な男の態度、ウェディングドレスを縫う針子の女性の仕事の遅さ、さらには集まってくる親族の鼻持ちならなさに、ジェーンは苛立たせられることになります。そうした中で、夜中に不審な出来事が起こり、翌日になってみれば死体まで発見されてしまって…。

 主人公のジェーンが家を離れたことで、彼女の子どもらや近所の住人といった、お馴染みの登場人物が出ないものの、新婦の不愉快な親戚たちや、なにやら秘密がありそうな人物など、登場人物のアクの強さがあることでの面白さは、これまでと同等かそれ以上と言えるでしょう。
 ただし、最初の事件が起こるまで、そして次に事件が急展開するまでの流れはやや中だるみしているような印象もあります。さらには犯人の持つ異常性を最後に大きなインパクトとし、物語中で説得力を持たせるためには、そこに至るまでに示される伏線や書き込みが、必ずしも十分ではないという気もします。
 また、前作『カオスの商人』では感じなかった、訳者が変わっていることでの違和感が本作に関してはやや強い気がすることも、シリーズ読者にとっては物語の持っている要素の面白さを半減させているのかもしれません。