小路幸也 『ブロードアレイ・ミュージアム』

ブロードアレイ・ミュージアム (文春文庫)
 1920年代のブロードウェイ。キュレーターとしてブロードアレイ・ミュージアム(BAM)に努めるために田舎町からこの大都会に出てきた青年エディは、ここでフェイという少女に出会います。フェイは、この私設博物館に運ばれて来るような、「いわく」ある品物に触れることで、その品に関わる人間たちがこれから遭遇する悲劇を見てしまうのだといいます。

 "古き良き"時代のアメリカ、ブロードウェイを舞台にした物語。ベーブ・ルースアル・カポネなど、実在の人物が作中にも存在することで、読者が映画などで知るかつてのアメリカが、実にノスタルジックに描かれます。
 それぞれが重い秘密や事情を抱え、「悪党」と呼ばれるだけの過去や性質を併せ持っていたり、素姓すら明らかではない登場人物たちですが、「悪党」ではあっても「悪人」ではないという、ギャングですらユーモラスな人間的魅力に溢れた人物として描かれます。
 必ずしもきっちりと解明されない現象や、細部を端折ったような各話の落とし方も、「昔語り」という枠組みを持ってくることで、ノスタルジックな空気を持った物語としてきちんと完結されます。
 物語は、ある種のコンゲーム的な側面もあり、最良の結末を得るために主人公らBAMの面々が奮闘するというものですが、同時に、物悲しい背景の上にあるからこその幸福感に満ちた、「あの頃」という輝かしい過去への郷愁のような空気感が魅力と言えるでしょう。