西澤保彦 『腕貫探偵』

腕貫探偵 (実業之日本社文庫)
 大学や病院の片隅に、いつの間にか現れる「市民サービス課臨時出張所」。いかにも公務員然とした、黒いアームカバーをした男性が座るその場所へ、悩みを抱えた相談者が訪れます。酔ってたまたま辿り着いたバス停で知人の遺体を発見してしまった男子学生、再婚して幸せなはずの母親の突然の原因不明の体調不良、一度は別れたものの交際を再開した女性の不審な態度、押し入れから出てきた沢山の学生証に困惑する男性、殺された女性の死の寸前の謎の行動に悩む警察官、車内で評判の女傑との飲み会と評判の悪い同僚の行動の裏、画家の展覧会で一つだけ余った段ボールの謎。
 土地や登場人物たちが微妙にリンクする連作短編集。
 探偵は、市民の相談に乗る公務員として描かれますが、同時に神出鬼没でどこかこの世ならざる者といった空気を併せ持つこの安楽椅子探偵こそが、本シリーズでの最大の謎と言えるでしょう。「公務員」というイメージをそのままキャラクターにし、極力人間性を排除したかのように描かれる安楽椅子探偵を用い作品として、本作はシンプルなパズラーものの魅力が詰め込まれた一作となっています。
 著者らしい、人間のダークな側面をクローズアップして読者を突き落とすような作風あり、幸せな結末を迎える作風ありと、短編集ならではのバラエティも楽しめました。