東側篤哉 『謎解きはディナーのあとで』

謎解きはディナーのあとで
 国立署で刑事を務める宝生麗子は、一握りの人間を除いては彼女の上司である風祭グループの御曹司の風祭警部にすらその素性は伏せられているものの、実は宝生グループの令嬢。そんな彼女が事件の捜査で壁に当たり、ついつい執事の影山にその詳細を話してみれば、「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか?」との失礼極まりない反応が返ってきます。

 東川作品にしては謎の複雑性は低いものの、本作は良い意味でライトノベル的なリーダビリティとキャラクター造詣が盛り込まれており、従来の作品以上に広く一般に受け容れられる要素を兼ね備えているように思えます。キャラクターの性質をラノベ的にすることで、どこか脱力感をもたらすこれまでの東川作品のテイストを含む会話が、何故か洒脱にも見えてくる辺りは不思議とも言えるでしょう。
 実際に捜査に当たっている刑事の「お嬢様」と、彼女の話を聞いて安楽椅子探偵の役割を果たす「執事」というキャラクターの属性を明確に打ち出すことで、各話とも安定した質を持った作品となっている部分もあるでしょう。
 また本作は、キャラクターの特性ばかりに目は行きがちですが、それぞれの謎はどちらかと言えば小粒ではあるものの、さすがにその論理は破綻がなく、しっかり安楽椅子探偵ものとしても練られた作品揃いのシリーズ短編集。短編と言う枠内で、影山によって謎が解明されるまでには、読者に対して過不足のない手がかりがきちんと提示されます。
 ただし、今後さらにシリーズ展開を進めるのであれば、このキャラクターの個性(というよりは属性)に頼って安易にパターン化しかねない様式に、プラスアルファも欲しい気はします。