近藤史恵 『モップの精と二匹のアルマジロ』

モップの精と二匹のアルマジロ (実業之日本社文庫)
 清掃作業員のキリコは、夫の大介の勤める会社が入っている同じビルで働くことになります。そんな中、同じビルに入っている別の会社で働く「王子」と称されるイケメン男性の妻だという女性が、キリコに夫が浮気をしていないかどうかを探って欲しいと頼んできます。ですが、大介の目の前でその男性が交通事故に遭い、妻となっていた女性と出会う以前にまで記憶が逆行してしまう事態に陥ります。

 "ヤマアラシのジレンマ"ならぬ、"アルマジロのジレンマ"を描いたシリーズ初の長編。
 本作は、自分たちふたりの在り方に時として不安を抱きながらもそれを乗り越えてきた、大介とキリコの夫婦が、互いに裡に秘めたものをさらけ出せないゆえに問題を持つ真琴と友也という二人に関わる物語となります。
 元々夫の友也の心が余所にあるのではないかという不安に苛まれていた真琴ですが、この二人の問題は友也が記憶を失うという事故によって一気に表面に浮かび上がることになります。そして本作では、大介とキリコがそれぞれ友也と真琴に接することで、「友也が何を考えているのか」「彼に何があったのか」という謎が、いくつもの複雑な伏線によって結末で明らかにされることとなります。
 タイトルに含まれるキーワードが実に効いた結末は、希望を残しつつも哀しさを感じさせるものもあり、「アルマジロ」という喩えが実に絶妙と言えるでしょう。