鈴木麻純 『ラスト・メメント 商人と死』

ラスト・メメント    商人と死 (角川ホラー文庫)
 遺品整理を促す葬儀社の藤波透吾によって与えられたダメージから連絡を絶っていた和泉ですが、父親の五樹の代理で五樹の旧友が開催する亡くなった彫刻家の展覧会へと赴きます。そこで彫刻家が遺した箱の鍵を探すことを依頼され、成功すれば和泉が収集している絵のシリーズのうちの一枚である「商人と死」をくれると持ちかけられます。ですが、絵の作者の孫でもある貴士が横槍を入れ、自分が先に箱を開けるので絵の権利も貰うと言い張ります。

 シリーズ2作目。
 本作では、シリーズのタイトルにも織り込まれた「メメント・モリ(死を思う)」というテーマが、亡き彫刻家と彼の愛した娼妓との関係をつなぐ箱の存在に、また、国香の意外な過去に象徴されます。
 そして、和泉と国香が死者を重んじ、作品のテーマである「死を思う」ということへのアンチ・テーゼとして、本書では前巻以上の存在感を持って藤波透吾が立ちふさがることとなります。
 また、主人公の和泉が収集する絵画そのものについても、貴士というキャラクターを投入することによって浮き彫りにされ、今後その点についても踏み込んだ展開が期待できるのかもしれません。
 謎解きものとしては提示される条件が不十分な面がありますし、死というものを描きホラー小説のレーベルにあるにもかかわらずその直接的な「怖さ」的なものも薄いということも言えますが、反面で本書では、藤波透吾というキャラクターの理不尽さとでも言うべき「存在の怖さ」は描かれた一作と言えるでしょう。