倉阪鬼一郎 『白い封印 美術調律者・影』

白い封印    美術調律者・影 (角川ホラー文庫)

 絵画や音楽、映画など、自身で創り上げた呪いによって世界を支配しようとした異端の芸術家の黒形上赤四朗。その唯一の息子である影は、次々に世界に災いを運んでくる父親との戦いために、形上家の血脈に秘められたものを仲間たちとともに探り、そこから対決の糸口を見つけ出そうとします。調査の結果浮かび上がってきたのは、形上家の長男がかつて興したカルト事件であり、その関係者で黒形上赤四朗の崇拝者らしいペンションのオーナーでした。

 シリーズ第3弾となる本作では、影や黒形上赤四朗の形上家の血統がクローズアップされ、因縁の根がこれまでとは違った視点から浮き彫りにされてきます。そうした意味では、物語の全体図とでも言うべきものが少しずつ見え始めたシリーズの分岐点とも言える一作であり、これまでは線の弱すぎた印象の影にも徐々に怪物となった父親と向き合う覚悟が本格的に出来た一作となっています。
 物語の重点は前二作に比べると、黒形上の作品に秘められた呪術的なおぞましさを描く比重は小さくなり、その分ホラー的なエグさはやや控え目になっていると言えるでしょう。
 形上家に潜む全ての元凶とでも言うべきものの全容はまだ明らかになっておらず、今後のシリーズ終盤へ向けて期待したいところ。