篠原美季 『よろず一夜のミステリー 枝の表象』

よろず一夜のミステリー: 枝の表象 (新潮文庫)

 一家が不幸な死を遂げ、後に入った女性が孤独死を遂げたという家で、肝試しに来た若者たちが投稿した動画をきっかけに、幽霊騒動が持ち上がります。土地の持ち主の家族である人物からの情報提供を受け、都市伝説や不可思議な現象を扱うサイト「よろいち」でアルバイトをする恵(ケイ)は、嫌々ながらも情報提供者に会い、現地へと足を踏み入れます。苦手な幽霊の取材をさせられる恵ですが、その裏では、恵が就職活動で内定を貰った会社を巡るきな臭い話やら、失踪した父親の影やら、恵が気付かぬうちに様々なことが動き出していました。

 シリーズ最終作ということで、シリーズを通して見え隠れしていた、恵の父の失踪の真相が明らかにされることにより、本作をもって一応の結末はつけられています。ですが同時に、思わせぶりな背景を持つ新キャラクターなど、シリーズ第二期を始める心づもりは満々という著者の意図も透けて見える一作。
 また、物語で扱う「幽霊」に関しては、これまでのシリーズ作品で扱われてきたものほどのインパクトはないですが、一応瑕疵のない合理的な解釈がつけられていると言えるでしょう。ただし、サブタイトルとなっている「枝」の存在感の薄さ――ひいては、事件の中心人物への踏み込みの弱さゆえに、それぞれの事象のつながりがあるにもかかわらず、今ひとつ全体としては散漫な印象があることは指摘できるかもしれません。
 ですが、科学的なアプローチにより落としどころを付けるというコンセプトは、知識として読んでいて面白さもありますし、それなりの成果を見せるものであったとは言えるでしょう。