加納朋子 『はるひのの、はる』

はるひのの、はる (幻冬舎文庫)
 幼い頃から幽霊を見ることができたユウスケが母親と川のほとりの土手でお花見をした日、それが彼と未来から来たという「はるひ」との出会いでした。その日不幸にも殺害されてしまうはずだった女の子は、「はるひ」とユウスケが本来しなかったことをしたおかげで生き延びます。その後も時折現れては、「肝試しの手伝いをして欲しい」「好きだった男をとり殺したいという女の幽霊の話を聞いて欲しい」などのお願いを、「はるひ」はユウスケに持ち掛けます。殺人事件の被害者になるはずだった女の子、挫折した漫画家、薬の研究をしている男、猛禽を飼っていた少女など、運命の変わった人間たちが揃った時、ユウスケは「はるひ」の行動がひとつながりの意味を持つものであったことを知ります。

 久々の加納作品。夫を亡くした主人公が、乳飲み子を抱えて佐々良で幽霊となった夫に守られながら過ごす物語『ささら、さや』にはじまるシリーズ完結編。
 『ささら、さや』では赤ん坊だったユウスケが成長した本作では、前2作よりも死の色彩が強く、登場する人物や幽霊たちのやさしさや哀しみの背景には、常に重苦しい運命のようなものが仄めかされることになります。
 それぞれバラバラで何の意図があるのか不明な「はるひ」の頼みごとの意味が、物語が進んで行くにつれて重なり合う登場人物たちの姿から、少しずつ明らかにされ、最終的にひとつながりの物語となる本作は、シリーズの最終作に相応しい連作短編集となっていると言えるでしょう。
 人の生死に関わる運命を変えるという、時間を遡って出来事に干渉する力を持つらしい「はるひ」の行動の意味とその重さが明らかになる物語終盤は、それまで物語の核として存在しながらも、「はるひ」以外の登場人物たちに対しては直接的な関わりをあまりもたなかったユウスケが、自ら動いて全ての繋がりを手繰り寄せることとになります。
 シリーズ読者にとっては、頼りなかったサヤ(ユウスケの母)が自分の足で歩くようになった第一作から、成長したその息子のユウスケがこの物語の幕を閉じるということで、より一層本作が感慨深いものに思えるのかもしれません。