倉阪鬼一郎 『黒い楕円 美術調律者・影』

黒い楕円  美術調律者・影 (角川ホラー文庫)
 見る人間の精神のマイナス面に強い作用を及ぼす、異端の画家である黒形上赤四郎の回顧展が開催されます。「黒い楕円」という作品を通じて巧妙に仕掛けられた罠に気付いた影たちですが、美術展で販売されたり配布されるグッズをはじめとする「黒い楕円」の影響は、彼らが気付かぬうちに日常の中に紛れ込んでいました。

 黒形上赤四朗の作品に仕掛けられたものが、この画家の信奉者によって拡散し、増殖していくという物語の基本的な骨組みは前巻と同様ですが、狂気に満ちた呪詛の禍々しさはこの2作目になってもなお衰えることを知りません。
 物語のパターン的には、前巻を踏襲して若干のアレンジを加えただけと言うことも出来るのでしょう。ですが、それでいながら本作も、読んでいて禍々しさに引き込まれるようなパワーを持った物語であると言えるでしょう。それは、とにかく黒形上赤四朗というキャラクターの造形によるところで大きいと言えます。
 ただその半面、警察の中でこうした特殊な事件を扱う部署に就いているという橋上なども前巻に引き続いて登場はするものの、その存在感は今ひとつ薄いという気がしないでもありません。主人公側のチームのキャラクターが、黒形上赤四朗に比べると、あまりにも存在感が弱くなってしまうという側面はあるのかもしれません。
 物語の中で圧倒的な負の魅力を放ち、存在感を示す黒形上赤四朗を取り巻く謎は勿論のこと、彼と対峙する影に関わる更なる謎が明かされそうな次巻に期待したいところ。