望月守宮 『無貌伝 奪われた顔』 

無貌伝 ~奪われた顔~ (講談社ノベルス)
 ついに明かされる、探偵秋津と怪異である「ヒトデナシ」の無貌、ヒトデナシを従えることのできる能力を持つ、秋津の妻にして「ヒトデナシの女王」遥。そして彼らに巻き込まれた助手の相原の物語。顔を奪われた探偵の絶望と、そこに隠された真相の物語。

 次巻『最後の物語』でシリーズ最終作を迎えるという位置付けの本書でようやく明かされる、第1作から断片的に語られてきた、探偵とヒトデナシ無貌の間の過去・まさかの真相編。そこで明かされる思いがけない真実では、これまで築き上げられた来た物語の断片が綺麗に再構築され、その全ての伏線が綺麗に回収され、最終巻でどこに着地点を置くのか、否が応でも読者を期待させることとなります。
 これまで、主に助手の古村望が物語の視点の中心を担っており、探偵については、「三探偵」と称され、絶対的な存在であるヒトデナシ無貌の宿敵というような位置付けのようでありながらも、彼の存在感というのはどこかもどかしさを感じさせるようなところがありました。無貌に「顔」を奪われ、彼を知るすべての人からは姿も声も認識されないという悲劇的な業を背負っているとはいえ、古村望が憧れた「探偵・秋津」はあまりにも不甲斐なく、抜け殻としてしか生きていなかったわけですが、本作を読むことで、そのすべてを納得のいく形で再認識することが出来るようになります。
 すべての物語のはじまりであるこの物語は、単なるシリーズ前日譚ではあり得ず、最終作の直前にこの物語を持ってきたというのは、この壮大な物語世界の構成の妙であったと言えるでしょう。