伽古屋圭市 『帝都探偵 謎解け乙女』

帝都探偵 謎解け乙女 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
 大正時代の帝都、探偵小説のホームズに憧れる裕福な家の女学生の菜富は、彼女に仕える俥夫の寛太を助手に、探偵業を始めます。既に亡くなった女学校時代の親友からの手紙の謎、鍵の掛けられた蔵から消えた木彫りの西郷隆盛像の謎、未来から来たという男が依頼した人探し、再婚を前にして火事で死んだはずの夫を見たという夫人の話のからくり。これら、持ち込まれる不可解な謎を解き明かした先には、さらなる真相が待ち受けていました。

 名探偵になりたいというぶっ飛んだお嬢様と、実は謎を解き明かすのは助手の青年という図式の連作短編集。二人の淡い恋愛模様も絡めた、割とライトな読みもの・・・と思いきや、最終章では思わぬ仕掛けがしっかりとなされている一作。純然たる仕掛けそのものの意外性は勿論、さらには、ある意味その仕掛けが為されていること自体にも意外性があったという印象もあります。最終的に明かされる部分に関して言えば、ライトノベル的な物語の空気もまた読者を騙す一因であり、ある程度疑ってかかる読み手の予想のはるか上を行く真相の演出に成功していると言えます。
 各話の謎についていえば、第一話の『死者からの手紙』については、ある程度の予測がついてしまうという意味で、真相の意外性という面で弱い部分は皆無ではないでしょう。また、『密室から消えた西郷隆盛』では、トリックの意外性は綺麗にまとまっているものの、その錯誤を与えることの実現可能性という面で、必ずしも弱い部分が無いとも言い切れない点は指摘できるでしょう。また、『未来より来たる男』では、事件については綺麗に説明されているにもかかわらず、結末の付け方がどうもすっきりしない感じも受けます。そして『魔炎の悪意』では、途中から事件の大まかな構図が割とあからさまであるという気もします。そしてこれらの「弱い」と感じた部分もある程度作者が意図的に演出したものではないかという部分と、さらには全体的に違和感を感じる部分が最終章で明かされる謎の伏線に繋がる辺りなどは、実に良く練り込まれて読み応えのある作品に仕上げる一因になっていて、結末部でのサプライズを生み出しています。
 ただ、この種の作品である程度要求される、「最後まで読み終わった後でもう一度読み返したくなる」という欲求を持たせてくれるのかといえば、そういった意外性よりも最終的にはむしろ、様式美に則ったエンタメ作品としての予定調和の中に綺麗におさめてしまったという感じは無きにしも非ずといった気はします。