西澤保彦 『必然という名の偶然』

必然という名の偶然 (実業之日本社文庫)

付き合う女性と続かなかったり、結婚式を挙げる段になって花嫁がいなくなってしまうなど、どうやら女運に恵まれないらしい友人がまた結婚式を挙げるというので参列するものの、今回も何事もなしには終わらなそうで…。(『エスケープ・ブライダル』)
夫に届いた宅配が、どうやら同姓同名の別人宛のものではないかと首を傾げる妻。そして近所に住む夫と同姓同名の男の家で起こった殺人事件の意外な真相。(『偸盗の家』)
同窓会名簿にある一定の法則に当てはまる人物が不審な死を遂げることに気付いた友人に警告を受け、自身に何かが起こるのではないかと怯えながら過ごす男の一夜(『必然という名の偶然』)。
教え子の女子中学生の家へ家庭訪問することになった男ですが、自分に対して思わせぶりな態度を取る女生徒の扱いに困っていたところ、妻からの電話で嵐によって国道が通行止めになっているという話を聞かされます(『突然、嵐の如く』)。
妻との待ち合わせをした時間まで間が空いてしまい、ふと通りがかったかつて自分が住んでいたアパートに、出来心を出して足を向けてしまった男に降りかかる災難(『鍵』)。
都会へ出て成功した同級生が帰ってくるのに合わせ、同学年で集まろうということになります。昔話に花を咲かせますが…(『エスケープ・リユニオン』)。

 『腕貫探偵』シリーズと同じ架空の町で繰り広げられる6編の事件の物語。
 本書に収録された物語には、「腕貫さん」という絶対的な探偵役の不在ということがあり、それゆえにシリーズ本編とは随分と異なった雰囲気となっていると言えるでしょう。それは、絶対的な探偵による謎解きでそれなりのオチをつけることがないため、物語はどこか視点となっている人物の妄想めいた推測で転会される部分が大きいことによるのかもしれません。そして軽妙な展開ながらも、どこかうすら寒さを感じさせるような、妄想の末の結末がどれも秀逸。
 『エスケープ・ブライダル』『エスケープ・リユニオン』『必然という名の偶然』の3作は、「同窓生」というキーワードがともに重要となっています。同じ時間を過ごした間柄だからこその感情のねじれや、ふとした拍子に起こってしまった不幸が何とも言えない後味となっていました。
 また、『偸盗の家』『突然、嵐の如く』『鍵』の3作では、夫と妻という関係性が物語の重要な部分に織り込まれています。特に『鍵』は、単に夫と妻との間のすれ違いといったようなレベルの話ではなく、偶然の連鎖の結果で起こってしまった事件の裏にあった真相には、読者までもを絶望に突き落とすほどの暗い悪意が込められています。
 それぞれ短編という枠の中でコミカルとも言えるテンポで進められる物語であるにもかかわらず、ブラックな意図がじわじわ効いてくる作品集となっていると言えるでしょう。