スウェーデンのメロデス、アーチ・エネミーの3年ぶり通算10枚目のスタジオ録音のフル・アルバム。
前作"KAOS LEGION"リリース後に、アモット兄弟の弟の方、クリストファー・アモットの2度目の脱退を経て、後任のギタリストにニック・コードル*1が加入しましたが、今年の春に突然バンドのフロントであるアンジェラ・ゴソウがバンド活動におけるパフォーマーとしての引退を発表し、併せて後任のヴォーカリストにThe Agonistのヴォーカルでカナダ出身のアリッサ・ホワイト・グラズが加入すること、そして既に新体制で新しいアルバムのレコーディングを行ったという電撃発表のニュースが駆け巡りました。*2
決して音楽性の違いや人間関係の不和で脱退をするのではなく、アンジェラは今後もマネージメントの面ではバンド活動には関わり続けるそうですが、世界中のファンには残念なニュースであったことでしょう。
後任のヴォーカルが「あの」ジ・アゴニストのアリッサ嬢であるというニュースの驚愕は計り知れず、それと同時に彼女であれば確かにアンジェラの後任として十二分であるという説得力もありました(マイケルのインタビューによれば、アンジェラの引退を受けて残ったメンバーが今後の方向性を模索する際に、アーチ・エネミーとしての活動の終了か、新たなメンバーの加入かという選択肢が浮かび、以前よりアンジェラと親交のあったアリッサが唯一の候補として残ったようです。*3
グロウル、スクリーモ、クリーンと、自在に歌い分ける*4表現力と確かな実力、そしてソング・ライティングも出来るという引き出しの多様さを持つアリッサの起用は、アンジェラだけでは拓ことのできなかった新たな領域をアーチ・エネミーが目指すための最良のキャストであったのでしょう。
そんな新体制で作られた今回のアルバムは、楽曲の半分はまだバンドの今後が確定していなかったアリッサが後任ヴォーカルに決まる前に作ったものであり、残り半分がアリッサが正式に加入することが決まり、彼女も曲作りに参加したものが含まれるとのこと。
また、アリッサのヴォーカルが加わること、彼女の音楽センスが盛り込まれることでの化学変化という以外にも、今回のアルバムではオーケストラを一部の曲に使うなど、これまでとは違った試みがなされています。
マイケルもアリッサも自信曲として挙げている#9 TIME IS BLACK など、アルバム後半の曲において盛り込まれるオーケストラ・パートは、アーチ・エネミーの持ち味が存分に発揮されるエクストリーム・パートと組み合わせることによって、より一層ドラマティックな展開を可能にしていると言えるでしょう。
アルバムのリリースに先駆けてミュージック・ビデオが公開されたタイトル曲の#3 WAR ETERNAL は、このバンドのお家芸とでも言える要素と、アリッサのヴォーカルとで創り上げた、実に攻撃的な1曲。このアルバムは全体的に、初期のアーチ・エネミーにも片鱗が見られたような、ブルータルで攻撃的、そしてエクストリームやテクニカル・デスの要素も感じられて速い曲というのが多いアルバムとなっています。
そして何より、色々と新しい要素を盛り込みながらも、聴いてみれば確実に「アーチ・エネミーの曲」と分かる、このバンドの個性がしっかりと出ていると言えるでしょう。
正直なところ、前作あたりでは、アルバムとして平均点以上の出来であるのは確かなのに、どうもマンネリ感のようなものも感じられたのですが、今回の新生アーチ・エネミーの"WAR ETERNAL"には久々にぞくぞくさせられました。
文句なしに、捨て曲なしの1枚。
*1:余談ですが、"WAR ETERNAL"の対訳のところで、ニックの名前が全てNick Cordieになっているような。小文字のlとiとの間違えなんでしょうけれど。
*2:アンジェラがアーチ・エネミーの表舞台から退くという意思を固めたのはそれほど突然のことではなく、前作"KAOS LEGION"のツアーをやっていた頃からだったと言います。バンドのマネージメント活動を彼女が担っていたために、並行してヴォーカルとしてフロントに立ちパフォーマンスを続ける事の負担が大きかったことに加え、自身のアーチ・エネミーでのパフォオーマーとしての頂点が現在であるという認識から、今が表舞台から身を引く時なのだという決意をしたとのこと。
*3:元々アンジェラ加入後のアーチ・エネミーに衝撃を受けたことでこの世界に入ることになったとも言える経歴を持つアリッサは、ヴォーカル・スタイルや音楽性といった面だけではなく、思想面でもアンジェラと似た部分があるようで、違和感なくアーチ・エネミーに合流出来たといった感じがインタビューからもうかがえます。
*4:今回のアルバムではクリーン・ヴォイスで歌うことはありませんでしたが、アリッサのインタビューによれば、「あれもこれも出来るからと言って、その全てを一つの場所で使う必要はない」というような主旨のことを笑いながら語っていたように、多様な表現ツールをその場に応じて使い分けることが可能な彼女ならではの器の大きさもまた大きな魅力と言えるかもしれません。