過去の事件のあった部屋の壁から、暴力や恐怖の記憶を感じ取ってしまうインテリア・コーディネーターのゾーイは、新たに顧客となった男の寝室の壁から不吉なものを感じます。別れた妻が持っていったと言うベッド、不自然に塗り替えられた壁などから、その男が妻を殺したことを確信するゾーイは、私立探偵のイーサンに調査を依頼します。
冒頭で起こる妻殺しの疑惑の事件がメインとなるのかと思いきや、物語は中盤に差し掛かるあたりからゾーイの過去へと焦点がシフトします。殺人事件の被害者となったゾーイの元夫の死の謎と、その夫から相続した会社の株式を巡る義兄の疑惑、ゾーイに深い傷を残すことになった精神病院からの追っ手など、事件は思わぬ方向へと展開して行きます。
この辺りの運びは、巧妙なストーリーテリングによってスムーズな流れを見せており、導入部の事件からゾーイの過去の事件までが無理なく物語中において配置されています。最初の事件を導入口にしてゾーイの特殊な能力への読者の認知を自然に促し、私立探偵のイーサンとの出会いと物語の始まりを丁寧に演出する構成は、本作において上手く機能していると言えるでしょう。
また、伏線の部分で若干の弱さはあるとはいえ、事件の真相の意外性もそれなりに演出されており、本作は中だるみを感じさせること無く最後まで一気に読ませるものでした。