キャサリン・コールター 『追憶』

追 憶 (二見 ザ・ミステリ・コレクションコ 5-11 )
 FBI捜査官サビッチと妻のシャーロックは、休暇中に不思議な事件に遭遇するものの、ワシントンで起こった連邦最高裁判事の殺害事件のために急遽呼び戻されます。プロの殺し屋の犯行の線が濃厚になる中、被害者の義理の娘のキャリーも協力し捜査陣は関係者への聞き込みを進めますが、事件は連続殺人の様相を呈し始め、さらに犯人はサビッチら捜査陣に対して挑戦的な行動を取ってきます。

 非日常を思わせる冒頭から、判事殺害事件でガラリと雰囲気が変わるダイナミックな導入は面白いものの、実際のところ過去の事件を本作に入れ込む必然性は弱いと言わざるを得ないでしょう。過去の事件の中での親と子の関係を重ね合わせることで、現在起こっている事件関係者の心情の記述をより補強するという意味合いはあるとしても、休暇中のサビッチが遭遇したこの事件に関しては、むしろ巻末にでも判事殺害事件と同時期に起こっていた別の物語の掌編とでもして収録した方が、作品全体としてもすっきりとした気はします。
 全く異なる事件を並列して扱い、無理にその事件同士が結び付けられることがないという点に関しては、これまでの既刊作品ではよりリアルな捜査官の姿として読者に受け止められていましたが、本作に関してはどうも過去の事件の扱いが中途半端な感が否めません。
 また、物語の本筋の事件の結末に関しては、本作の主用登場人物の取る選択が受け容れ難いと感じる読者も少なくない気がします。
 むしろ、なぁなぁに纏めてしまわず、救いのない結末に落としたほうが納得の行くものになったのではないかという印象もあります。