キャサリン・コールター 『眩暈』

眩暈 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
 眠らされ、湖に投げ込まれたところで幸運にも意識を取り戻したレイチェルは、自分が死んだと思い込んだ殺人者たちの隙をかいくぐって逃走を開始します。ですが、ケンタッキー州のバーロウという田舎町に差し掛かったところでレイチェルの車が故障し、偶然にヘリの墜落事故に遭遇します。ヘリに乗っていたFBI捜査官のジャックと、ジャックが移送していた精神科医のマクリーンを助け出しものの、自分が生きていることを犯人たちに知られないようにとレイチェルは立ち去ろうとします。ですが、駆けつけたジャックの仲間であるサビッチとシャーロックは、レイチェルが何かを隠していると感じて彼女を足止めしようとします。

 主としてレイチェルの事件を軸に物語は進みますが、二つ以上の事件を同時進行させることで、実際の事件捜査のリアリティを感じさせてきた本シリーズなので、今回はもうひとつ、患者の秘密を口外したがために命を狙われることとなった精神科医のマクリーンの事件も随所で挿入される構成で本作は描かれます。
 そして、中盤までにはレイチェルの命を狙う黒幕は確定するものの、何故実行犯が彼女を追跡できたのかなど、書き込みの弱い部分も無いとは言えません。そうした部分を含め、レイチェルやFBIと実行犯との知恵比べ的な要素で盛り上げるサスペンスという方向性にしても面白かったかもしれないという印象はあります。
 また、本作においては精神科医マクリーンの事件は、マクリーンという人間の悲哀の側面が強く、必ずしも事件解決の要素が中心ではないことが、今一つ消化不良であった気もします。特にエピローグ部分はやや唐突であり、作品の中で浮いている感じもしないではありません。
 サビッチ&シャーロックという、シリーズの中心人物が脇役に回っていることもあり、シリーズ中では取り立ててこれという要素はないともいえる半面、田舎町バーロウの住人やレイチェルの伯父のジレットなど、もっと出番を期待するような個性的な登場人物も多かったという長所もはっきりと感じられる一作でした。