キャサリン・コールター&J・T・エリソン 『激情』

激情 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))
 サビッチ&シャーロックのFBIシリーズのスピンオフ的新シリーズ。
 英国人で初のFBI捜査官となったニコラス・ドラモンドと、彼のパートナーを務めるマイケラ・ケインの二人が組んだ初日に捜査するのは、街なかで殺された古書店店主の事件でした。ですが、現場で聞き込みをしているまさにその時、目撃者の一人が犯人を発見し、ニコラスたちはその男を追いかけますが――。
 街なかでの殺人から端を発した事件は、序盤から怪しげな秘密組織の存在が匂わせられ、何か重大なものを巡る正体の見えない者たちの攻防が透けて見え、もはやFBIですら手におえない世界規模の謀略へと発展します。
 第二次大戦中にあった「何か」がこの事件の、そして事件に見え隠れする組織の背景にあることは当初より仄めかされますが、600頁を超える分量で綴られる物語では、ある程度事件の中での対立構図がはっきりするまではやや展開にもどかしさも感じられる部分もないとは言えません。
 ですが、次々に起こる事件によって状況が深刻になっていく展開は、まさに怒涛の展開と言うに相応しく、先へ進めば進むほど頁をめくる手が早くなっていくような一冊に仕上がっています。
 このスピンオフ的シリーズは、キャサリン・コールターとJ・T・エリソンの共作という形で上梓されていますが、FBI捜査官のサビッチとシャーロックのコンビが中心となるシリーズ本編では、幾つかの別個の事件が同時進行する物語形式であるのに対し、本作ではひとつながりの根を持つ大きな陰謀が徐々に明らかになるという点で、シリーズ本編との違いを見い出すことが出来るでしょう。