キャサリン・コールター 『閃光』

閃光 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))
 バーで若い女性に声を掛け、飲み物に薬を混入し、意識が朦朧となったところで殺害するという連続殺人事件が起こります。幸運にも採取できた犯人のDNAからは、全米を驚愕させた連続殺人犯、テッド・バンディ遺伝子を受け継ぐのDNAが発見されました。そんな中でFBIで事件を担当することになったルーシーは、父の死の間際に聞いた家族間で起こったかもしれない殺人に、密かに思い悩みます。さらには、ルーシーの上司であるサビッチが偶然に関わることになった、食料雑貨店の店主に対する襲撃事件が思わぬ展開を見せます。

 いくつかの事件の捜査が並行して物語が展開するという、本シリーズの特徴は本作でも健在で、3つの別々の事件を同時進行で描きながらも決して散漫にはならず、めまぐるしい展開で読み手を惹きつけ、さらには犯罪捜査に関わる組織や登場人物たちにリアリティを持たせていると言えるでしょう。シリーズ11作目ということで、この辺りはすっかり著者の手慣れたもの。
 今回、サビッチとシャーロック夫妻はその確固たる存在感を示しつつも、彼らの部下の女性捜査官ルーシーを物語の中心に据えていますが、そこにサビッチの特殊能力に絡めた問題を付加することで、ルーシーにもサビッチにも、そしてこの物語そのものにも十二分な存在意義を与えている部分があるのかもしれません。
 さらには本作では、1974年から1978年の間に多数の女性を殺害し、その正確な数は分からないまま死刑を執行された現実に存在したシリアルキラー、テッド・バンディを間接的に登場させている辺りにも特筆すべき点があると言えるでしょう。