望月守宮 『無貌伝 最後の物語』

無貌伝 ~最後の物語~ (講談社ノベルス)

 自らの手下であった「蜘蛛」の裏切りの結果、「無貌」という存在を死の影が蝕むようになり、その計画にも翳りが出て来てしまいます。無貌という存在の消滅へのタイムリミットを前に、藤京へと向かいこれまで顔を奪った被害者の近しい人々を訪ね歩く無貌。自身の無力さに歯噛みをし、刑事を辞めてただ個人として無貌を追う溝口。ヒトデナシに対抗する組織「長靴」の崩壊と、その保護下にあるもののただ利用され続けることを良しとせずに、無貌を消滅させ自らも死ぬことを決意する秋津の妻・遥と彼女の協力者の岬。そして無貌に顔を奪われてただ一人生き延び、対峙してきた探偵。さらには、長靴と警察と軍の三者が、それぞれの覇権を追い求める思惑の下、無貌や遥を手中に収めようとします。

 『探偵の証』で迎えた怒涛の展開とその結末、そして物語のはじまりとすべての真相を解き明かした前作『奪われた顔』。そしてそれに続く本書は、終始して静かにカタストロフィを迎える、シリーズの壮大なエピローグであったと言えるでしょう。
 本作にあっては、単純な探偵と犯人の善悪二元論の枠を遥かに飛び越え、奪った者と奪われた者のそれぞれのアイデンティティが、静かに滅びを迎える楽園の夢とともに浮かび上がってくることになります。
 独特の世界観、エンターテインメント性、真相の意外性を味あわせてくれたこの物語の結末は、詩美性に富んだ滅びのもの悲しさと同時に、どこか清々しささえ感じさせるものでした。