望月守宮 『無貌伝 〜夢境ホテルの午睡〜』

無貌伝 ~夢境ホテルの午睡~ (講談社ノベルス)
 ヒトデナシと呼ばれる怪異の存在の中でも、人々に恐れられる無貌が逮捕されたという報せが、無貌と因縁の深い探偵の秋津と助手の望のところにも届きます。この事態を受けて、秋津だけではなく三探偵と呼ばれる残りの二人までもが招集され、彼らは「夢境ホテル」で一堂に会することになります。ホテルについたヒトデナシの力で「夢の一週間」と呼ばれる時間を過ごすことになる面々ですが、それぞれ思惑を抱えた宿泊客らが集う中、30年前にある事件のあった部屋で男の死体が発見されます。探偵としてその場に来ることの無かった秋津に代わって望が、秋津の助手として正式に認められるための試験として夢境ホテルで起こっていることを解き明かすべく行動を起こします。

 無貌伝2作目。シリーズ幕開けの前作で設定の構築の基礎がしっかりと形作られていたおかげで、その世界観の奥行きを感じさせる本作では、遺憾なくその魅力が発揮されているといえるでしょう。
 そして前作が、その根底にある枠組みはあくまでも人外の怪異を許容するファンタジー・伝奇小説でありながらも、描かれているのはどこまでもオーソドックスな「探偵小説」であったのに対して、本作はどちらかと言えばファンタジー要素重視のミステリに仕上げられていると言えるかもしれません。
 夢境ホテルと呼ばれる、「ホテルが見る夢」の中で過ごす「夢の一週間」を舞台に起こる殺人事件を描いた本作は、事件におけるクローズド・サークルを自然な形で成立させると同時に、まさにこの世界構築の中でしか起こり得ない事件を描いたもの。その意味では、単純なミステリとして読む以上に、異界として描かれる作品世界の面白さ、そしてその上に構築される物語の持つ面白さを存分に味わえるものとして本作は高く評価したいところ。
 それぞれが怪しげな事情を抱えた登場人物たちの配置にも隙がなく、また本作で登場する人物たちも非常に魅力に満ちたものとして描かれます。
 ファンタジーとしても、またその世界でしか成立しない独特のミステリとしても、非常に良質な作品。