チェルシー・ケイン 『原罪』

原罪 (ヴィレッジブックス)

 責任能力なしと見なされて病院に拘束された美しい連続殺人犯"ビューティ・キラー"グレッチェン・ローウェル。彼女によってかつて心身ともに癒し難い傷を付けられた刑事のアーチーに、グレッチェンが接触を図ってきます。様々な方面から気を引こうとする殺人鬼を撥ね付けるアーチーに、新聞記者のスーザンを介してもたらされたのは、グレッチェンが最初に殺したという男の話でした。そうした中で起こる惨たらしい連続猟奇殺人事件の捜査に当たるアーチーは、次第にその事件の裏にグレッチェンの影を見ることになります。

 ビューティ・キラーシリーズ第五弾であり、シリーズを通してはシーズン2とでもいうべき位置付けの幕開けになる一作。
 物語の始まりから中盤にかけては、これまでは圧倒的な支配力を持って作品世界に君臨してきたとでも言うべきグレッチェンの存在は弱く、その分物語の持つ吸引力は弱まっているようにも感じます。
 ですが、終盤へ向けてこれまで明かされることのなかったグレッチェンに繋がる糸が見え始めると、物語は一気に加速し、さらにはラストで明かされる真実には大きな破壊力さえ感じさせられ、真相の意外性という部分でも評価できるものになっています。
 グレッチェン・ローウェルという、ダーク・ヒロインとでも言うべき強烈な個性を見せつける殺人鬼の存在そのものを掘り下げた一作として、読み応えのある作品と言えるでしょう。