有栖川有栖 『真夜中の探偵』

真夜中の探偵 (講談社ノベルス)

 探偵が違法とされ迫害されるパラレルワールドの日本を舞台とした探偵ソラのシリーズ2作目。単独調査をしていた母は失踪し、有名な探偵であることを隠して田舎に住んでいた父は逮捕され、残された純は大阪で父親の裁判を待ち、母親の行方の手掛かりを求め続けてアルバイトをしながら独りで生活を送ります。そんな中、父親の弁護士からの連絡によって純は、彼女の両親に仕事を仲介していた押井の存在を知らされます。ですが純が押井と会って1週間後、押井と関わりのある元探偵の男が不可解な状況で死体となって発見されてしまいます。

 シリーズ2作目の本書では、前作ではおぼろげだった「探偵になる」ことを純が現実的に捉え、「探偵ソラ」としてその孤独な道を歩み始める一作と言えるでしょう。
 そして、前作においては抑圧された社会ゆえの暗さというものはあっても、友人と過ごす高校生の純の日々には明るく穏やかなものがありました。それが本作においては、父親が逮捕されて彼女自身も監視を受ける厳しい状況で身を潜めなければならない息苦しさのようなものが終始漂っています。
 国家という圧倒的な力を持つ「敵」に対しては、まだ探偵ですらない17歳の少女はあまりにも無力であり、物語は今後もおそらくは厳しいものとなるのでしょう。本作では、弁護士の森脇、仲介者の押井やアパートの隣人であった三瀬など、物語にとって新たな要素が登場しますが、中でも失踪した純の母親が探っていた「ブラキストン・コンフィデンシャル」という謎が、今後の純の戦いのキーワードとなるのは間違いないでしょう。あまりにも強大過ぎる国家という敵に相対するにあたり、タイトルの『真夜中の探偵』という言葉も、闇の暗さの中にも強さを象徴するものとして、純と仲介者の押井との会話の中で浮かび上がってきます。そうした部分を含め、本作はシリーズの今後への大きな伏線を張るという役割を持つ一作であったのでしょう。
 また、不可解な殺害状況やトリックなどは実に端整であり、ライトノベル的世界観とキャラクターで動いていく物語の中にも、著者らしいテイストも盛り込まれた一作でした。