柴田よしき 『フォー・ディア・ライフ』

フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

 新宿二丁目で、この町で働くワケアリの親たちから子供を預かる無認可保育園の園長をつとめる花咲慎一郎。元刑事の彼は、採算の合わない保育園の赤字を埋めるため、副業として探偵業も請け負っていました。そんな花咲に持ち込まれたのは、暴力団に関わって拉致された少年を助け出すこと。他の探偵が調査していたものの、探偵自身が失踪するという事態に至って暗礁に乗り上げた家出した少女の捜索。ですがこれらの仕事の合間にも、本業の保育園では次々に問題が起こります。

 探偵物語の主人公といっても、本作の主人公の花咲は決してタフガイというわけではなく、いったんは人生からドロップアウトした過去に傷を持つ、言ってみればくたびれた中年男性。そんな彼は繁華街の片隅で裏社会とも関わりを持ちつつ、その町で生きる人たちを大事にしている――というコンセプトがしっかりと見える作品。
 幾つもの事件が次から次に起こり、それらが複雑に絡み合って結末へとなだれ込むという構成は、ある意味こうしたジャンルでは王道とも言える展開ですが、それだけに良くできてはいるが強烈な個性は感じられないという難点も多少感じられました。
 とはいえ、本作が刊行された1998年からは既に20年近い年月が流れており、そのために時代背景やらポケベルやらといったガジェットもあって、今改めて読むとレトロ感が物語の作風とマッチしているようにも思えます。
 その一方で、外国人労働者の子どもの国籍問題や医療保険の問題、公営の保育施設に入れない家庭の事情など、現代においてまさに問題になっていることが作品の根幹にあったりと、今読んでも十分に読み応えのある作品とも言えるでしょう。