有栖川有栖 『論理爆弾』

論理爆弾 (講談社文庫)
 二つに分断され、「探偵」が違法として取り締まられる世界で、失踪した母の手掛かりを求めて、九州の御影村へとやってきた探偵を志す空閑純。探偵の仕事をしていた母が、その村で誰に会い、何を調べていたのかを探る純ですが、山を越えたすぐ向こうでテロが起こり、その影響で村は孤立してしまいます。閉ざされた村の中で、母の痕跡を探す純は、探偵"ソラ"として、母の失踪とも繋がっていると思われる過去の事件の調査もはじめます。そんな中、村で老婆が殺されているところを目撃したという人物の通報で駐在が駆けつけますが、現場には遺体などなかったという不可解な事件が起こります。

 『闇の喇叭』『真夜中の探偵』に続くシリーズ三作目。
 『闇の喇叭』では、探偵になる素質と志はあったものの、まだ親の庇護下にあったごく普通の高校生であった純が、本作ではようやく「探偵」としての第一歩を踏み出すことになります。
 本作では、北海道と本州から沖縄までと、二つに分断されたパラレルワールドの「日本」を舞台とするシリーズならではの、単なる探偵小説の範疇を超えた国家間の攻防や、権力とそれに理不尽に虐げられる個人という、シリーズの持ち味がこれまで以上に生きた展開が見られます。
 また、著者がデビューからずっと描いてきた「学生・アリス」や「作家・アリス」のシリーズにおいては、「探偵」は比較的最初から完成された「名探偵」の姿で存在していたのに対し、本シリーズでは素養こそあるものの、まだまだ普通のなんの力もない少女が「探偵」として、危なっかしくも強大な敵と少しずつ対峙していく姿にこそ、キモがあると言えるでしょう。
 国家に与しない「探偵」としての自身を選択するがゆえの孤独を抱えつつも、遠く離れた友や新しい出会いに力を得る少女の姿はどこまでも凛として清々しく、今後の展開にも期待が高まる一作。
 そして、作品のタイトルともなっている『論理爆弾』という言葉が、はっきりとリンクすることで見えてくる結末部では、犯人の見せた闇と、純の持つ真っ直ぐな強さの対比が何とも印象的でした。