周木律 『双孔堂の殺人 Double Torus』

双孔堂の殺人 ~Double Torus~ (講談社ノベルス)
 妹に頼まれて、放浪の数学者と呼ばれる十和田のサインを貰うため、ちょうど彼が滞在しているダブルトーラスという通り名の奇妙な館を訪れた警視庁キャリアの宮司。ですが、到着したその館では、起こった殺人事件の犯人として、十和田が有力な容疑者となっていました。自らも自身が犯人だと言わんばかりの十和田は事件前後の記憶を失っており、あっさりと警察に取り調べのために連行されてしまいます。議論を戦わせる数学者たちが滞在していたダブルトーラスで何が起こったのか。

 数学者が数学的な理論に基づいて建てられた館で起こる事件を解き明かすシリーズ2作目。
 前作に引き続き、放浪の数学者と呼ばれる十和田が事件の謎を解き明かしはしますが、本作では十和田はほとんど警察に拘留されていて、もっぱらやる気の薄い安楽椅子探偵であり続け、物語の視点となって考え、実際に動くのは、警視庁のキャリアの宮司となっています。
 本書では前作よりも衒学的な雰囲気が強く、数学の薀蓄の分量が多いのでとっつきやすさはないものの、その辺りはある程度読み流せるだけのリーダビリティは確保されています。この数学的な議論の展開や説明が不要かと言えば必ずしもそうではなく、舞台となる館そのものが数学理論に基づいて建てられているために、ある程度の必然性はあるのでしょう。
 犯人の仕掛けには一部穴が感じられる気もしますが、トリックそのものや事件の構造などには、読者に読ませる面白さは備わっていると言えるでしょう。
 本書で登場した宮司兄妹や、前作で登場した天才・善知鳥神などの登場人物が、今後のシリーズ展開の中で生きてきそうな辺り、期待してしまいます。