三上 延 『江ノ島西浦写真館』

江ノ島西浦写真館
 江の島で写真館を営んでいた祖母の遺品整理のため、繭は江の島を訪れます。かつては写真家を志したものの、自身の撮った写真で人を傷つけてしまった経験から、一切カメラを手にしなくなった繭は、培った写真の知識からその1枚の写真の背景を読み解き、写真館に遺された未渡しの写真を持つべき人のもとへ届けることにします。

 古い写真から謎を読み解く主人公が、過去のあやまちから写真を撮ることに強い忌避感を感じつつも、ひとつ謎を解くごとに自身の心の傷を克服していく再生の物語。
 そして、主人公の繭が亡き祖母を介して新たに出会う人、再会する人、そのすべてが綺麗に繋がる結末は、敢えて明確な答えを描かないからこその余韻があると言えるでしょう。この物語が続くのかどうかはわかりませんが、題材といいロケーションといい、そして人物の描き方といい、実に魅力的なガジェットを取り揃えている一作。