J・D・ロブ 『呪われた使徒のレシピ イヴ&ローク36』

呪われた使徒のレシピ イヴ&ローク36 (ヴィレッジブックス)
 仕事終わりに多くの人が集まるNYのバーで、80人以上の人間たちが犠牲となる事件が起こります。グラスのガラスやフォークといったその場にある武器で互いに殺し合ったらしい惨劇の現場では、何者かが薬物を用いたことでこの事件が引き起こされたことが捜査を続けるうちに判明します。さらには、かつて起こった戦争による混乱の時代、狂信的な男による同じような事件があったという事実が明らかになります。

 本作では、犯罪者でもあった自身の父親による虐待を受けた経験を持つ主人公のイヴと、同じように犯罪者の血脈である本作の犯人との対比が象徴的に描かれます。また、事件の捜査をする中でイヴが、シリーズ34作の『悪夢の町ダラスへ』でのトラウマを呼び起されながらも、それを克服することで本作の事件の犯人に対峙する強さが際立つ辺りも、物語の運びの上手さと言えるかもしれません。
 過去の事件との関連が浮かび上がってくる面白さや、意外でありつつもプロファイリングをしてみれば実に説得力のある犯人、さらに犯行の背景にあった真相など、個人的には長いシリーズの中でも屈指の面白さの一作でした。