堀川アサコ 『大奥の座敷童子』

大奥の座敷童子 (講談社文庫)

 十三代将軍の徳川家定の治世。奥州の貧乏藩である野笛藩から、五十年前にいなくなってしまったという座敷童子を見つけて藩に連れ戻すことを家老から命じられて大奥へとやってきた今井一期。大奥の女性たちのところへ、いかがわしい枕絵を置いていく「枕絵の妖怪」と呼ばれる存在やら、現れると人が死ぬという「泣きジジさま」など、不可思議な存在たちに振り回されながら、五十年前に野笛藩から大奥へ来た人物を一期は探ります。そうした中、一期自身を狙う者たちの存在が見え隠れしますが…。

 女性たちの情念渦巻く大奥の物語と思いきや、主人公の一期をはじめ、とぼけた登場人物たちの持ち味で、何とも軽妙な読み物に仕上がった一作。
 生き生きと描かれる登場人物たちの魅力と、人間も人ならざる者たちも巻き込み、大奥を舞台にした過去の陰謀も絡んで展開する物語は上質のエンターテインメント作品と言えます。
 読み終えて、ほんの少しの悲しさを含みつつも、心温まる著者の作風が十二分に生かされた作品になっています。