冲方丁 『はなとゆめ』

はなとゆめ (角川文庫)

 一条帝の御世、離婚と失恋を経た28歳の清少納言は17歳の中宮定子のもとへ出仕することになります。華やかな宮中で気後れして身を隠すようにしていた清少納言ですが、人の素質を見抜きその資質を伸ばすことにも長けた定子によって、少しずつ才能を示しはじめていきます。ですが、定子の兄である藤原伊周と、権勢を広げようとする藤原道長との政争によって、彼女らの華やかで満ち足りた生活に陰りが出てきます。ほんの一時しか咲かない花ゆえに切なさを感じるのなら、いっそ見なければ良かったのではないかという歌が脳裏をよぎりながらも、その花と出会えた幸福を伝えた清少納言の物語。

 枕草子を題材とした小説はこれまでにもありましたが、彼女が仕えた中宮定子の政争に翻弄された運命を、清少納言の視点で劇的に描いた作品として、本書は特色ある一作かもしれません。物語は、冒頭から悲劇へと向かっていくことが運命づけられており、その昏い予感にページを繰る手が動かされます。
 その反面、男性作者ゆえということもあるのかもしれませんが、宮中で生きる女性たちそれぞれキャラクターへの踏み込みは浅い一面もないとはいえません。
 ですがこうした抑制のきいた文章だからこそ、より劇的に描かれる物語でもあるのでしょう。