池井戸潤 『下町ロケット』

下町ロケット (小学館文庫)
 かつて研究者として開発したロケット打ち上げに失敗した経験を持つ佃。父親の町工場を継いで、中小企業の社長として製品開発で業績を上げていた彼ですが、大手からの大口契約を破棄されたりと、決して経営は楽ではありませんでした。そこへ来て、競合の大手会社から言いがかりとしか見えない不当な特許侵害の訴訟を起こされ、会社は窮地に陥ります。さらには、国産のロケット開発を行う大手企業から、エンジンのバルブの特許を買い取りたいという提案がなされますが・・・。

 夢を抱く中小企業の社長と、大企業のプライドやそこに渦巻く私利私欲、夢ばかりを追いかける社長に蔑にされていると思い込んで鬱屈を溜める若手社員という、わりと分かりやすい図式が盛り込まれたエンターテインメント作品。
 ものづくりを大切にする下町の町工場という、決して派手ではないモチーフを使いながらも、分かりやすい悪役を設定し、勧善懲悪を盛り込むことで、誰もが楽しめる作品を成立させたと言えるでしょう。何よりも、完全に追い詰められ、状況を打破する糸口など無いと思われた状況からの逆転劇の面白さが、本作を際立たせています。