カーラ・ネガーズ 『霧にひそむ影』

霧にひそむ影
 カメラマンのカリーンは、山での撮影中に何者かにライフルで襲われ、危ういところを幼馴染で空軍のパラシュート部隊に勤務するタイラーとその仲間達に助けられます。この事件を期に関係を深めるカリーンとタイラーですが、結婚式を間近に控えたその日に、突然「結婚は出来ない」と、タイラーは彼女から逃げ出してしまいます。それから一年、心に深い傷を負ったままのカリーンですが、仕事先で彼女が死体を発見してしまい、タイラーの元同僚のマニーがこの件に深く関わっていて、彼が警察に疑われることになります。

 三人の作家の競作『ミステリー・イン・ブルー』に収録されていた『愛と欲望の島』のスピンオフ。
 ヒロインのカリーンとタイラー、元パラシュート部隊でタイラーの仲間だったマニーとその妻子、『愛と欲望の島』の主人公であったカリーンの姉とその夫の上院議員、カリーンの雇い主のランコート夫妻など、何度か視点は移り変わりますが、さほどの煩雑さはありません。そして特に、脇役ながらマニーとその妻との関係や、ランコート夫妻の人間性など、物語の展開と共に徐々に深く掘り下げられる人物の書き込みは成功していると言えるでしょう。
 その半面で、主人公のカリーンとタイラーに関しては、今ひとつ心情の掘り下げが通り一遍なぞっただけという感じがあり、途中やや中だるみも感じられる部分がありました。
 また、事件のからくりに関してもうまく作りこんではいますが、対決シーンなどの緊迫感はあるものの、サスペンス的な部分ではやや伏線や見せ方に、演出上の弱さを指摘できるでしょう。