タニス・リー 『パイレーティカ女海賊アートの冒険 上/下』

パイレーティカ女海賊アートの冒険 上巻 (1) (小学館ルルル文庫 り 1-1)パイレーティカ女海賊アートの冒険 下巻
 両家の子女を集めた女学校で、頭を打ったことを切欠にし、アートは母親のモリーが女海賊"パイレーティカ"であったという記憶を取り戻します。ですがかつての仲間との再会を果たしたアートには、"パーレーティカ"は芝居であり、母のモリーは役者として舞台で海賊の役を演じていただけだと知らされます。それでも誇り高い海賊であることにこだわるアートは、本当に船を奪い、本物の海賊となって出航します。そしてアートの持つ宝の地図を狙う悪名高い海賊の娘、リトル・ゴールディ・ガールが彼女の前に立ち塞がりますが…。

 まず、おそらくはティーンズ層をターゲットにしたライトノベルで本作を刊行したことは、あらゆる意味で失敗だったのではないかという疑問を持たざるを得ません。
 タニス・リー独自の美しい世界観は、本書においてはほとんど感じられず、役者によって命を吹き込まれる前の芝居の脚本を読まされているだけのようで、ライトノベルという媒体においては重要視される「登場人物の魅力」面でも弱さが見える作品となってしまった気がします。
 おそらく原書においては、韻を踏んだ語感の遊びや、前編に渡ってこだわっている「芝居」ならではの過剰なほどにレトリックに満ちた台詞回しも楽しむ作品であったのでしょうが、残念ながら本書のレーベルの枠内では、その辺りを伝えるには限界があった可能性があります。
 芝居であった"パイレーティカ"を現実としてしまう主人公の力、そしてとことん「芝居」を手法として前面に押し出した演出の面白さがもう少し伝わるものであれば、また評価も違った作品かもしれません。