ステラ・キャメロン 『血のキスをあなたに』

血のキスをあなたに
 亡くなった叔父の屋敷に移り住んだヴィヴィアンと母親のシャーロットは、そこでホテルを開業する準備を進めていますが、彼女らに叔父が遺した遺産についての報せをくれるはずだった弁護士が、何者かに殺されます。血で遺されたキスの跡と白いバラが添えられた異様な死体を発見してしまったヴィヴィアンは、はからずも現場を荒らしてしまい、担当刑事に疑惑の目を向けられて嫌がらせのような尋問をされます。町の保安官補であるスパイクは彼女の力になってくれますが、屋敷とそこに隠された遺産を巡り、様々な思惑が交錯します。

 謎かけとともに遺される遺産、異常さを感じさせる殺人、ホテルの開業を快く思わずに策略を巡らせる隣人、怪しげな霊能者にうわさ好きでそれぞれの思惑を持つ近隣の十人など、非常に魅力的なガジェットに富んだ作品。
 ですが反面、これらを生かしきることが出来ず、遺産探しの謎はおざなりになっていたり、殺害現場に残された血のキスとバラの意味合いがどこか不明瞭だったり、登場人物の個性も今ひとつ弱いなど、事件を読者が追っていく上で重要な部分での欠陥も指摘出来てしまいます。
 また、ロマンス小説として読むに際しても、スパイクというキャラクターの「保安官補」「幼い娘の父」という属性への踏み込みは甘く、個性付けの面での弱さもある気がします。